オープンデータ、ありがとう事例

「オープンデータって、大きな効果がなさそうですし、意味があるのか…」そんな声、よく聞きます。
でも、実はすでに地方自治体が、上手に使って、業務をちょっとラクにしたり、市民サービスをちょっと良くしたりしています。

デジタル庁でもオープンデータ100として事例を紹介されています。

このブログでは、実際に「データ、ありがとう」という声を聞いた執筆者の2つの事例を紹介します。


事例(1):TSMCで山林の再開発が進む熊本(2024年)

熊本ではTSMCの進出に伴い、宅地開発や施設建設を目的とした業者による森林開発が進んでいます。

たとえ森林を取得したとしても、直ちに宅地化や施設建設が可能になるわけではありません。開発予定地が森林に該当するかどうかを確認する必要があり、開発事業者やデベロッパーは取得前にまずその調査を行います。その結果、森林整備を所管する原課さんには、連日、業者からの確認の電話が相次ぎ、通常業務に支障をきたすほどの状況となっていたようです。

森林整備の原課さんからデータ推進の原課さんも支援し、BODIKからはユーティリティの「shape2GeoJSON」を提供しつつ、geojson形式の「森林計画図」をオープンデータでBODIK ODCS上に準備されました。
県下全体のgeojsonはデータが膨大となるため表示されるまでかなりの時間を待たされてしまいますが、熊本県では各市町村ごとに分かれたデータで準備されています。開発事業者やデベロッパーは特定の地域データだけでも目的が達成できること、また表示が県全体で提供されるよりも高速に表示できるようになっています。

BODIK ODCS 熊本県オープンデータカタログサイ)

情報公開請求の多いデータからオープンデータにすると業務が楽になるとの話もよく聞きますね。
今回は、BODIKとしても森林データの文字化け対応などでBODIKユーティリティの「shape2GeoJSON」を提供したり、データの圧縮方法やビューアの検討など、ある程度の期間を支援した関係もあり、原課さんの大変な状況は聞いておりました。
「本当に楽になりました。ありがとうございました」との声も頂きました。

事例(2):九州北部豪雨xひなたGIS(2017年)

執筆者が前職の地方創生を推進していく中で、福岡県朝倉市において、中山間地の耕作放棄地の復活からの地方創生を目指し、鳥獣被害の少ない「えごま」栽培から「えごま油」を商品化し、同市ふるさと返礼品に取り上げられるまでになっていたプロジェクトがあります。
えごまの取組をはじめてから3年目になり作付け面積も増やした2017年7月、いよいよ苗の定植という直前、九州北部豪雨が発生!

2017年7月5日(水曜)深夜の線状降水帯により月降水量平年値を一晩で超える500ミリ以上の豪雨に見舞われた九州北部。福岡県朝倉市も全国でも放送されるなど大変な被害でした。

7月5日(水曜)の一晩で圃場もろとも流され、中山間地へ入る道も流れ、状況の把握もできない状況の中、翌朝7月6日(木曜)現地へ向かおうとしたメンバーからの第一報は「地形が変わりすぎて分かりません、大変なことになってます」との叫ぶような声。

6日木曜~7日金曜にかけ国土地理院なども現地入りされ、ヘリやドローンの上空写真データが公開されました。

その直後、以前より「ひなたGIS」に取り組まれていた宮崎県の職員(シビックテック・プログラマ)さんが、たった土日の2日で国土地理院などの航空写真を同システムに掲載する対応を行い、私たちにも連絡をくださいました。

ひなたGISでは国土地理院などのオープンデータ(被害状況の上空写真)と、被害前の上空写真を連動して見ることができました。ズームイン家屋や圃場の被害状況だけでなく、ズームアウトしながら被災地へ入るルートがあるのか無いのかなどが一目で分かります。
さらに、元々実装されていた人口のオープンデータを重ねることで、被害が大きいけれど住民はいないエリアなので優先度としては別の所から先に、なども把握することができました。

被害を受けた市町村は、それぞれの対策室において、机上に地域の地図を広げ、国土地理院の上空写真を印刷したものを並べて被害箇所を把握しようとされていました。しかし、地形が変わりすぎていたため上空写真だけでは場所の特定さえも難しく、ましてや被害地域へ入るルートさえも試行錯誤の状態で混乱されていたようです。
7月10日(月)から早速、我々のメンバーが朝倉市をはじめ被害の大きかった周辺市町村へ「ひなたGIS」を紹介してまわりました。宮崎県へ文書で利用許諾をだす必要がありますか?、など質問もありましたが、宮崎県のご担当からは先に使ってください、とのお話も頂いている旨、お話をしました。律義に宮崎県へ利用許可の連絡をされる市町村もあったようです。

初期の混乱がひと段落した際に、利用された市町村から次のようなご意見を頂きました。宮崎県さま本当にありがとうございました。

  • ひなたGISを利用された市町村からの意見まとめ
    • 最初は災害後の空中写真を紙で見ていたので、災害後の空中写真がGISで拡大して参照できるのは大変効果的だった
    • 現場から状況確認の電話があった際に、災害前後の画像を比較しながら参照して指示できたのが有効だった
    • 災害前後の空中写真を見比べられたのは、災害状況を確認するのに大変有効だった
    • 全体俯瞰だけではなく、道路状況、水路の状況、橋など、細かい状況の確認ができた
    • 農地の土砂流入状況確認業務は、ひなたGISで概要を認識して現地に赴くという流れで実施した
    • 農業公園が被害が大きい地区にあり、その被害状況や、そこに行きつく林道の状況などを確認できた
    • 我々の村の被害箇所において、災害後の写真は雲が多くかかっていたのが残念
    • 他県との境がないため、広域でみることにより、県を超えた迂回路の確認もできた

データがオープンになっていると、災害対策で混乱している庁内であっても、調達プロセスを経る時間も必要とせず、まさに災害時の「自助」「共助」「公助」に加わる「技助」としても素晴らしい事例かと思います。
なお、「技助」はオープンデータがあるからこそ実現できるものです。

国土地理院のサイトでも2画面で地図を連動させて見るモードもできていますが、ひなたGISのこのような事例が受け入れられているのかも知れません。
ちなみに現在のひなたGISには災害時の上空写真レイアウトは対応していないようです。

このようなオープンデータありがとう事例をBODIKブログに記載して、発信したいと思います。ぜひ【フォーム】からお知らせくださいませ。

うえだ