なぜ今、オープンデータなのか?
BODIKディレクター 坂本 好夫
「ホームページにも情報を公開しており、情報公開請求制度もあるのに、なぜオープンデータに取り組む必要があるのか?」
「オープンデータを公開しても、何の役に立つのかわからない」
「人手も時間も足りない状況で、オープンデータに取り組む余裕がない」
「オープンデータの必要性はわかったけど、どこから手を付けたらよいかわからない」
これは、BODIKが多くの自治体様を支援していく中で、自治体職員の方から実際に聞いてきた声です。
そして、その感覚は自然なものだと考えており、多くの現場を見てきた経験から、その意見も理解できます。
それでも今「少しだけ立ち止まって考えてみる価値がある」そんなタイミングに来ている、と考えています。
ここ数年の生成AIの進化は、私たちの想像をはるかに超えるスピードで進んでいます。
プログラムが書けない人でもアプリケーションを作れる時代になりました。
生成AIは文章を作成し、データを分析し、政策検討も支援します。
かつては一部の専門家のものだった技術が、今や誰でも使えるようになり、自治体の現場にも、これからどんどん生成AIが導入されていくと思われます。
このようにAIが社会に浸透していく中で、AIはデータに依存するため、これまで以上にオープンで高品質で信頼できるデータが求められています。
BODIKの12年間
BODIKは自治体のオープンデータの取り組み支援を、これまで12年間続けてきました。
正直言って、この12年間で、誰の目にも分かるような大きな成果を十分に示せてきたかというと、そうは言い切れない部分もあります。
その結果として、
「オープンデータに取り組んでも、結局何の役にも立たない」
「予算をかけてやる事業なのか、無駄な事業ではないか」
といった、否定的な事を言われたりもします。
行政の仕事は分かりやすい成果が求められます。短期的な効果が見えにくい取り組みほど、評価されにくいのは仕方のない事かもしれません。
それでは、なぜオープンデータの取り組みが「役に立たない」と思われるのか?
- 許可を取らずに自由に使われるため、誰が、どこで、どう使ったかが把握しづらい
- 短期的な数値成果に結びつきにくい
- 「やらなくても今すぐ困る」ことが少ない
このような性質を持つ取り組みだからこそ、否定的な意見が生まれるのは当然のことなのかもしれません。
オープンデータは歴史的に、「行政の透明性・信頼性の向上」といった情報公開の延長から始まり、シビックテックの推進による課題解決などにつながってきました。
このような状況の中で、これまでは、行政の意思決定や日々の業務と、直接結びつきにくく、「やらなくても今すぐ困らないもの」「余裕がある自治体が取り組むもの」として扱われることが多かったのも事実です。
しかし今、生成AIが業務支援や政策検討に使われ始めている現場において、オープンデータはAI時代の公共の意思決定を支える土台へと役割を変えつつあり、オープンデータに対する考え方を切り替えるタイミングに来ていると考えています。
AI時代において、問題は「AI」ではなく「データ」
AIは、与えられたデータをもとに、機械学習で学習することで、確率で処理され、文章作成やプログラミングをこなしています。つまり、AIの振る舞いは、どんなデータを与えるかに大きく左右されます。生成AIが倫理的に問題とされることがありますが、問題の本質はAIそのものではなくデータにあるということです。
データが閉鎖的なままでは、
- AI の判断根拠が不透明になる
- バイアスや不公平が見えなくなる
- 説明責任を果たせない
このような状態でAIを使えば、
- 社会的信頼を失い
- 公共分野での利用が困難になり
- 人権や倫理との衝突を引き起こす
そうした「信頼できないAI」になってしまいます。
AIを使うなら、
- 判断の根拠が見える形で
- 誰もが検証できる状態で
使えるようにしておかなければならないため、オープンデータは「AIを安全に使うための前提条件」になりつつあります。
信頼できるAIを実現するためには、オープンで、再利用可能な公共データが不可欠なのです。
なぜ今、オープンデータなのか?
「すべての自治体が、今すぐ完璧なオープンデータを整備しなければならない」わけではありません。重要なのは、これからの行政に、AIが当たり前に使われる時代が来る、その時、データをどう扱ってきたかが、後から大きな差になる。ということです。
AIは、これまでのITシステムのように完成形として現場に導入されるわけではありません。
業務支援ツール、文書作成、問い合わせ対応、分析補助など、利用していく中で、データを学習し進化していきます。
その時に、AIが参照するデータが、
- 部署ごとに形式が違い
- 更新状況や何のデータなのかが分からず
- 再利用を前提としていない
このような状態では、生成AIはそれっぽい回答をしますが、信頼できる判断材料にはなりません。
一方で、
- データのフォーマットが標準化され
- 意味がきちんと整理され
- 公開・共有されて、外部からも検証される
このようなデータが少しずつでも蓄積されていれば、生成AIは行政の意思決定を支える基盤として機能します。
この差は、短期的には見えにくいかもしれません。しかし数年後、生成AIの活用が当たり前になったときに、AIを使いこなす自治体、AIに振り回される自治体という、大きな差として現れてきます。
オープンデータに取り組むかどうかは、「今すぐ成果が出るか」ではなく、AI時代における自治体の競争力や選択肢をどう確保するかという視点で考える必要があります。
完璧である必要はありません。すべてを一度にやる必要もありません。
- よく使われる基礎的なデータから
- 既に公開している情報を、少し使いやすい形に整えるところから
- 「将来、AIが読むかもしれない」という視点を持つことから
それだけでも、十分に意味があります。
オープンデータはAI時代における“備え”であるということです。今、少しでも動き始めているかどうか、その差が、数年後の自治体の選択肢を確実に分けていきます。
この文章が、「オープンデータに、もう一度向き合ってみよう」そう考えるきっかけになれば幸いです。
BODIKはこれから、オープンデータ基盤をAI-Readyに進化させていきます。
- BODIK ODCS
BODIK ODCSは無償で利用可能なオープンデータカタログサイトです。まだ利用されていない自治体様で興味がある方は、BODIK ODCSのサイトをご覧ください。 - BODIKコミュニティ
オープンデータを継続的に進めていくためには、自治体同士の情報共有や利用者とのつながりも大切だと考えています。
BODIKコミュニティ(Slack)では、そうした交流の場を少しずつ育てていますので、よろしければご参加ください。
参考文献
UNESCO(2023)『Open data for AI: what now?』,著:Soenke Ziesche,UNESCO,ISBN 978-92-3-100600-5
(参照URL: https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000385841 )

